冷凍すり身とは
冷凍すり身とは、鮮魚の頭部及び内臓を除去し、洗浄した後、可食肉を皮及び骨から機械的に分離して得られた魚肉落とし身をさらに洗浄(水晒し)水切り、筋や黒皮、小骨等を機械的に除去精製し、脱水したものに砂糖やリン酸塩などの冷凍変性抑制剤を混合して凍結したものです。
すり身からSURIMIへ
冷凍すり身が開発されたのは今から39年前の昭和35年(1960)でした。
当時まったく新しい水産加工品であった冷凍すり身が、水産練り製品の原料として評価されたことで、水産練り製品の一大発展につながりました。冷凍すり身をして即席めんに匹敵する大発明といわれる所以です。今や冷凍すり身は世界各地で生産、「SURIMI」は世界共通語となっています。
冷凍すり身誕生への道程
昭和35年当時北海道立水産試験場の研究者グループが、北洋に眠っていた豊富な白身少脂魚のスケトウダラ資源の利用開発研究の結果、水産練り製品の原料としての無塩冷凍すり身を開発しました。またそれとは独立に当時京都大学農学部の研究者達も塩ずり魚肉の保存方法として加塩冷凍すり身を開発しました。
冷凍すり身の創生期
その当時水産練り製品業界では以西底曵漁による原料が不足し、これに代わる新しい原料を模索していた時代であり、その後冷凍すり身の生産量は急増しました。 開発当初の昭和35年の生産量は、わずか250トン(陸上すり身)でしたが、昭和40年(1965)には大手水産会社が洋上で加工船によるすり身(洋上すり身)の生産を本格化し冷凍すり身の生産量は急増しました。
冷凍すり身の国際化
現在その生産は全世界に広がり、その生産量はおおよそ80万トンにもおよんでいます。国内生産すり身の生産量は昭和51年(1976)の45万トンを最高 として年々減少し、特に200カイリ時代に入り国際的な規制のため洋上すり身の生産は激減しました。令和3年(2022)の国内生産量は5万トンまで減少しています。逆に輸入すり身が昭和56年(1981)以降増加し、令和4年には21万トンが輸入されました。
冷凍すり身が支えるもの
しかし、国内生産量が減少したとはいえ現在でもスケトウダラは漁獲量17万トン台の多獲性魚であり、大量処理、魚価維持が図れるのは冷凍すり身しかありません。さら、近年、4万トンの漁獲量があるホッケでも、生鮮消費以外の魚価維持には冷凍すり身に加工するしかありません。冷凍すり身製造業は水産練り製品製造業ばかりでなく、漁業をも支えているのです。
ねり製品原料として冷凍すり身が備えている利点をあげれば、次のような功績が考えられます。
(1) 魚肉に耐凍性を付与できること。筋肉中の筋原繊維(ゲル形成能)の冷凍耐性は魚種によって大 きな差があり、そのままでは冷凍変性をコントロ-ルできないスケトウダラなどの魚種では、砂糖などの変性抑制剤を添加できる冷凍すり身にすることによって コントロ-ルが可能となり、耐凍性の弱い魚肉でも長期貯蔵が可能になりました。
(2) 魚体処理を漁獲地で一括処理するために練り製品メ-カ-は用水確保、魚体処理、残滓処理、廃水処理の厳しい制約を回避でき、工程の合理化、コスト低減や計画生産が出来るようになりました。
しかし、冷凍すり身の登場により練り製品の地方色が薄れたともいわれています。
いずれにしても、冷凍すり身が水産練り製品業界に与えた影響は非常に大きなものがあります。
凍すり身の製造技術・装置の変遷
冷凍すり身の生産は昭和35年(1960)から始まりましたが、製造装置は当時すでに開発されていた機械を 組み合わせて使用し、製造しつつ技術と装置の開発が同時に進められました。水産加工業の一般的な傾向なのですが、冷凍すり身は、その製造理論・装置がかな り未完成で事業化が進めらました。
冷凍すり身製造の基本工程は、原料魚洗浄、魚体処理、採肉、水晒し、脱水、添加物混合、凍結で開発当初から不変ですが、その後各工程の効率化、裏ごし工程の導入、連続運転化が進められました。
開発当初からの製造方法のおおまかな変遷をまとめたのが「表1」です。もちろん以西魚すり身とスケトウダラすり身とでは、また陸上と洋上とでは、同種の機械でも導入時期が違うし、現在でもそれらの間にかなり相違がみられます。
表1の(1)は、昭和36年(1961)すり身開発当初の製法ですが、採肉・水晒し・脱水方法などすべての面で毎年のように改良が行われました。
当初フィレ-で水晒しされていたものが落し身晒しに変わり、水晒し装置も手動から撹拌装置付きになり、脱水も胴締め油圧プレスから遠心脱水機に変わりまし た。添加物も砂糖、ソルビット、重合リン酸塩に統一されました。製品水分や弾力など、製品の安定性はまだ不十分でしたが、昭和40年(1965)でほぼ冷 凍すり身の基本的な技術ができました。
昭和40年頃から洋上すり身の商業生産が始まり、魚体処理機の開発、回転フルイによる水晒し用水の低減、冷却式裏ごし機の開発、脱水用スクリュ-プレスの開発が昭和40年~昭和45年(1970)に行われました(「表1の(2)」)。
昭和47年(1972)に裏ごし機処理より肉温上昇の少ないリファイナ-処理方法と機械が開発され、現在とほぼ同様な工程ができあがりました。
また、この時期陸上工場では、北転船によるスケトウダラの漁獲が増大し、その処理としていままでのフィレ-処理からドレス処理にとどめて採肉し作業効率をあげる大量処理大量生産に変わり現在に至っています(「表1の(3)」)。
表1 冷凍すり身製法の変遷
(1)初期1961年当時
魚体洗浄 ・・・ 魚洗機
↓
魚体処理 ・・・ 手処理フィレ
↓
洗 浄 ・・・ 魚洗機
↓
魚肉採取 ・・・ スタンプ式
↓
水 晒 し ・・・ 換水式で3~5回
↓
脱 水 ・・・ 油圧式圧搾機のち遠心分離機
↓
挽 き 肉 ・・・ チョッパー
↓
添加物混合 ・・・ らい潰機
↓
凍 結
(2)中間期1970年頃
魚体洗浄 ・・・ 魚洗機
↓
魚体処理 ・・・ 手処理フィレ
洋上は機械処理
↓
洗 浄 ・・・ 魚洗機
↓
魚肉採取 ・・・ キャタビラ式orロ-ル式
↓
水 晒 し
(2~4回) ・・・ 換水式槽と回転フルイの併用
↓
脱 水 ・・・ スクリュープレス
↓
夾雑物除去 ・・・ 裏ごし機
↓
添加物混合 ・・・ リボンミキサー
↓
凍 結 ・・・ コンタクト式orセミエアブレスト式</td>
(3)現 在
魚体洗浄 ・・・ 除燐機
↓
魚体処理 ・・・ 手処理ドレス洋上は機械処理フィレ
↓
洗 浄 ・・・ 魚洗機
↓
魚肉採取 ・・・ 大型ロ-ル式
↓
水 晒 し
(2~4回) ・・・ 撹拌槽と回転フルイの併用
(予備脱水 ・・・ スクリュープレス)
↓
夾雑物除去 ・・・ リファイナー
↓
脱 水 ・・・ スクリュープレス
↓
添加物混合 ・・・ リボンミキサーorハイニーダー
↓
凍 結 ・・・ コンタクト式orセミエアブレスト式 </td>
冷凍すり身製造の工程の特徴として、水晒し方法の研究とリファイナ-の開発が冷凍すり身独自のものといえます。
水晒しは、魚肉中に含まれる冷凍変性促進成分の除去や色調の向上のために冷凍すり身製造では最も重要な工程です。
陸上工場の水晒しは3、4回行いますが、洋上では2回しか行われずさらに1回の用水量も少ない。
もう一つの冷凍すり身独自の工程としてリファイナ-処理があります。冷凍すり身は、練り製品の原料として普及したため、黒皮や小骨、スジ、鱗を除く裏ごし 処理が必要でした。当初、肉挽機で処理していましたが裏ごし機に変わりました。しかし、冷却式裏ごし機でも肉温が上昇する欠点がありました。
そこで昭和47年頃に肉温の上昇が少ないリファイナ-処理が開発され、はじめ陸上工場で、ついで洋上工船でも採用されました。
リファイナ-処理では、脱水前の晒し肉をリファイナ-を通して黒皮や小骨、スジ、血合肉などの夾雑物を除去するため肉温があがらなくなりました。
しかし、製造機械の発達した現在でも原料の鮮度管理、内臓の完全除去、ドレスやフィレ-の洗浄といった採肉工程に入るまでの処理をいかに注意してやるかで品質の大半が決定されます。
冷凍すり身の色々
スケトウダラの利用加工で開発された冷凍すり身の技術は、多くの水産練り製品の原料魚に応用され、冷凍すり身化が難しいとされていた魚種についても研究され製品化されています。
(1)マイワシの冷凍すり身
昭和52年(1977)~昭和57年(1982)まで、国の開発研究事業として近海で多量に獲れるイワシ、サバなどの多獲性赤身魚の冷凍すり身化試験が行われました。イワシ、サバの特徴として、死後の肉pHが6以下に低下することと、多量に含まれる脂肪や肉色素の除去が難しいことです。pHは重曹水などア ルカリ溶液で晒しを行い、pHを7前後に調整し、脂肪は遠心分離法や静置法などで除去し、酸化防止剤などを添加して製品化します。
(2)サケの冷凍すり身
いわゆるブナサケを原料にして近年生産されています。製法はスケトウダラすり身と変わらないが、肉片が微細化して脱水が困難になることがあり、この場合カルシウムやマグネシウムの塩を脱水助剤として使用します。すり身はピンク色を呈しています。
(3)他の冷凍すり身
道産品としては、ホッケ、イトヒキダラ、ワラズカのすり 身があります。本州では、グチ、エソ、タチウオ、ハモ、サメなどのすり身が製造されています。海外ではホキ、ミナミダラ、ヘイク、イトヨリダイ、チリマア ジ、キンメダイなど色々な冷凍すり身が製造され日本へ輸出されています。
冷凍すり身検査基準http://surimi.org/wp-content/uploads/2023/07/kensa.pdf
冷凍すり身製造技術http://surimi.org/wp-content/uploads/2023/07/seizogijutu.pdf
コーデックス規格https://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/codex/06/dl/cac_rcp52.pdf